コ ラ ム / インタビュー

「組織風土改革で経済成長につなげる
真の「働き方改革」を・・・」(前編)

株式会社セフィーロ 代表取締役 社長 峯村 隆久

~執筆者紹介~

三菱重工業、日本能率協会コンサルティングを経て現職。
生産性向上を中心としたコンサルティングの経験から組織風土改革の重要性を実感し、組織風土改革に本格的に取り組む。多くの企業のコンサルティング経験に基づいて、組織風土改革の成功のための理論を体系化し、職場密着型での改革支援をしている。
日本能率協会では「職場力向上のための組織風土改革セミナー」の講師として登壇。企業内の組織風土改革や働き方改革のために日夜コンサルテーションを行っている。

株式会社セフィーロ
代表取締役社長
峯村 隆久

1.働き方改革の盛り上がり

 政府は日本の経済成長のために「働き方改革」を掲げています。このこともあって「働き方改革」に取り組む企業が増えています。

 働き方改革の代表的な取り組みがダイバーシティとワークライフバランスです。ダイバーシティとは女性・高齢者・障害者・外国人・LGBTなど企業内での少数派・弱者(マイノリティー)が差別なく、活躍しやすい職場を実現しようという取り組みです。また、ワークライフバランスは、仕事だけでなく私生活も充実して過ごせる企業・社会を実現しようという取り組みで、残業時間の適正化が主な課題です。

 いまのところ「女性や高齢者が働きやすくなった」という話はあまり聞かれず、過重労働に関しては以前よりも深刻になっていて、働き方改革がうまくいっているとは言い難い状況です。

2.働き方に関わる日本人の一般的な価値観

 働き方は、人(働く人と働かせる人)の価値観に依存する面が強いため、働き方を変えることは簡単ではありません。そこで、ダイバーシティの主なテーマである「女性の活躍しやすい職場づくり」について日本人の一般的な価値観で考察してみましょう。

 日本では「男は強くあるべき」という価値観があります。近年では男性より女性の方が強くなっているともいわれていますが、公の場面では「男性は女性や子供を守る」という形にこだわる人がほとんどです。

 この価値観を持つ男性は、「つらい仕事」を女性に担当させることはできないと考えます。「つらい」には肉体面・精神面の2つのつらさがありますが、「精神面でつらい仕事」は「責任ある仕事(失敗をしたら責任を取らされる仕事)」のことです。このため女性に「責任ある仕事」を与えられることが少なくなるのです。当然ながら責任ある仕事を担当することが少ない女性は企業内での地位は上がっていきません。

 日本人の一般的な価値観でワークライフバランスについても考察すると次の通りです。

 終身雇用の歴史が長い日本では、「社員は会社に仕える」という考え方が主流です。このため上司からの指示されたことは、決して断ることはせずに最後までやり切ることが美徳です。

 一方、経営者・管理者の多くが高度経済成長期を経験しているため「努力をすれば必ず報われる」という価値観があります。このために膨大な仕事を部下に与えても、「努力が足りない」とか「本人の成長のため」と思って、過剰な業務量を是正しようとはあまり考えません。

3.働き方に関する価値観を変える必要性

 日本での「働き方改革」は「働く女性などの弱者に対する不公平の是正」や「働きすぎの是正」といった労働環境の改善が主な目的になっています。これは働く側の人たちにはメリットがあるものの、会社側の人たち(主に経営者)にはメリットがあまりありません。働く人たちの要望に応え、譲歩する取り組みであるならば、経営者はできるだけ業績への悪影響が出ない範囲に限定した取り組みにしようと考えるのが当然でしょう。このままでは、政府が掲げる経済成長のための取り組みどころか、経済成長の足を引っ張る要因になりかねません。

 真の働き方改革を実現するためには、働き方に対する価値観を変える必要があります。日本の経営環境の変化から、これから持つべき働き方の価値観について考えてみましょう。

 グローバル化によって、工場の海外移転など、単純な作業は人件費が安価に抑えられる国々行うことがあたり前になっています。一方で、新興国の企業は、安い人件費を武器に安い価格の商品をつくって先進国に輸出することが容易にできるようになっており、日本市場でもグローバルレベルでの厳しい価格競争になっています。

 このような経営環境では、従業員の「賃金」と「働き」もグローバルレベルでの競争となっているということです。例えば中堅エンジニアの場合、日本企業の平均賃金は、中国企業の3倍以上ですから、日本人は中国人の3倍働かなければ競争に勝てないということになります。この3倍の差を「一生懸命働く(長時間働く)」、「効率的に働く」ことで対抗できるでしょうか。無理な話です。

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